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推薦文

聖ヨハネ二十三世 ― 平和をあきらめなかった教皇

法政大学総長 田 中 優 子

tanaka

 教皇様は、世界で10億人とも言われるカトリック教徒の頂点に立つ。そのひとりであった教皇ヨハネ二十三世は、世界についての理想をもっていた。それは「平和」である。
 教皇在職の時代は、歴史上未曾有の悲劇となった第二次世界大戦は終結したものの、東西の冷戦が続き、キューバ海域は、人類の存亡さえも危うくする核戦争の一触即発の危機にあった。核でこの世界が消え去るのか否か。キューバ危機の際、その危機を回避できたのは、この教皇の力も大いに働いたという。改めて、カトリックの頂点であるだけでなく、世界を変える力をもつ重要な存在であることを認識させられた。それにしてもこの映画の、世界破滅の危機に近づく緊迫感には、手に汗を握った。
 教皇様はバチカンという国家のいわば大統領のようなもので、カトリック教徒にとってはもっとも神様に近い存在…と私たちは思いがちである。教皇ヨハネ二十三世も、「教皇が指をパチンとならせば、みな従うと思っていた」が、全くそうではなかったと語っている。二千年の伝統を守り通してきた宗教界の中で保守勢力に囲まれながら、時代に即しつつ理想に向かって重要な役割を果たしていくことの、いかに困難なことか。しかし、教皇はあきらめなかった。
 教皇は殺人犯や重罪犯の刑務所に赴き、彼らに言葉を与えた。ソ連とソビエト人を非難しようとする枢機卿たちに、非難ではなく対話を提案した。暴力に対して非暴力を提示した。そして戦争を回避し平和を実現するために「教会は人の心に語る言葉を発明しなければならない」と、400年ぶりに、第二バチカン公会議を招集したのである。これはカトリックの刷新のみならず、すべてのキリスト教会の一致を目指す歴史の大きな転換点だった。それは、この教皇様が生涯をかけた目的、つまり「平和」のためであった。
 平和の実現者として2014年に教皇ヨハネ・パウロ二世と共に列聖されたこの教皇様は、前教皇ピオ十二世の逝去の後、コンクラーベ(教皇選挙)で、なかなか後継者の決まらない中、高齢でおそらく在位期間も短く、次の候補者に橋渡しするだけの「中継ぎ教皇」として選ばれた。そのあたりの駆け引きもなかなか面白い。
 ところが、保守的な枢機卿たちの期待をことごとく裏切り、短い5年という在位期間の間に、ひたすら「平和」を訴え、そのためにあらゆることを刷新した。DVD『カロル』で見るような、空飛ぶ聖座といわれ、日本にも来られ熱い感動を与えた教皇聖ヨハネ・パウロ二世という偉大な教皇様がのちに誕生したのも、この第二バチカン公会議という刷新あってのことだったと今納得できる。
 ジュゼッペ・ロンカッリが教皇ヨハネ二十三世になるまで、彼は戦争という現実と向き合い、自らのやり方を通した。それこそが第二バチカン公会議に結実したのである。全編を通して、平和への絶え間ない努力こそが真に危機を救うのだ、という「意志」が伝わってくる。今こそ必要な映画である。